大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和44年(う)1302号 判決 1969年10月22日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人小林健治、長島忠信作成の控訴趣意書及び控訴趣意書訂正並びに補充書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

原審記録及び当審証拠調の結果に徴し按ずるに、

所論第一点は原判決に理由不備あるいは理由のくいちがいがあるというのであるけれども、原判決は「自動車運転者としては、予め、対向車輛を発見しても急激な制動避譲措置を採らず安全に離合できるよう速度を調節し、事故の発生を防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず」と明確に判示しているのであって、所論は理由がない。

所論第二点は原審は訴因変更の手続をとらないで起訴状と異なる訴因を認定した法令違反があるというけれども、起訴状記載の訴因は「あらかじめ速度を調節して道路左側を進行し、対向車両を発見しても、急制動又は避譲の措置をとることなく安全に離合すべき業務上の注意義務があるのに、軽卒にも対向車両を予測せず、漫然と時速約三〇キロメートルで道路右側部分にはみ出して進行、対向してくる新井敏夫運転の普通乗用自動車を発見するや、不用意にも急制動措置と左に避譲の措置をとった過失により」というのであり、原判決のこれに対応する判示は「予め、対向車輛を発見しても急激な制動避譲措置を採らず安全に離合できるよう速度を調節し、事故の発生を防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、漫然と時速約三〇キロメートルで進行した過失により」というのであって、なるほど本件事故に直接した過失の態様として示すところは、起訴状では「急制動措置と左に避譲の措置をとった過失」であり、原判決では「時速約三〇キロメートルで進行した過失」であるけれども、記載に明らかなように、いずれも注意義務としては対向車輛との離合の際における安全通行、事故防止義務を示し、その内容として速度の調節と急激な制動、避譲措置をさけることを指摘しているのであって、両者の掲げる注意義務に異なるところはない。唯一はその内容の一を、他はその内の他をとり上げて直接の過失の態様を示したというに止まり、被告人に所掲安全運行、事故防止の注意義務に違反した過失あるものとした点において訴因の変更はない。このことは起訴状においては前掲のように「漫然と時速約三〇キロメートルで……進行」といい、原判決では前掲判示に引き続き「直ちに急制動措置をとり左方に避譲の措置をとったため」と判示しているところからも明らかであるといわねばならない。所論は理由がない。

所論第三点は審理不尽、事実誤認をいうけれども、原判決摘示の証拠により判示事実を認めるに足り、所論の点を考慮しても右認定を覆すに足りる証左はない。所論は理由がない。なお被告人が運転した本件車輛にユニック装置のあることが、いわゆる欠陥車であるかのような主張があるけれども、記録に照し外観上一見明瞭なユニック装置のある本件車輛が、いわゆる欠陥車に相当するものとは到底認め得られないところである。

よって刑事訴訟法三九六条に則り本件控訴を棄却することとし主文のとおり判決する。

(裁判長判事 脇田忠 判事 高橋幹男 環直弥)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例